カーボンニュートラル | 日本プラスチック工業連盟

地球環境とプラスチック カーボンニュートラル

2020年10月に当時の菅元首相が宣言した「2050年にカーボンニュートラル」に対して、プラスチックはどうなのか、という点を取りあげています。ただし、客観的、定量的に説明するのは専門的で計算が複雑すぎること、また、プラスチックの種類や製造法によって数値がそれぞれ異なることからかなり難しい話となるため、ここでは大まかとしたイメージを持ってもらう説明にとどめます。

カーボンニュートラルとは

「カーボン」は直接的には炭素や二酸化炭素(CO2)を意味しますが、一般的には温室効果ガス(地球温暖化を引き起こすもの、CO2、メタン等)全体を指し、カーボンニュートラルの議論では人間の生産活動に伴い排出される温室効果ガスに限定されます。また、「ニュートラル」は「中立」、即ちプラスマイナスゼロの意味です。
ここではカーボンニュートラルを「温室効果ガスについて、人間の生産活動などによって排出される量と、森林などによって吸収される量、およびCO2の固定化や吸収等の技術によって除去できる量の合計の差し引きをゼロにする」という定義を引用させていただきます。

CO2はどこから発生しているか

温室効果ガスの代表例であるCO2。大部分は石油を代表とする化石燃料を燃焼させて得られるエネルギーを作る際に発生しています。例えば石油は、使用するにあたって蒸留という操作により、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油、重油、その他の製品に変換されますが、ナフサを除くほぼすべての製品は様々な形でエネルギーを生み出すために消費されます。天然ガス(LNG)、石炭なども、エネルギーを生み出す用途に大部分が使用されています。
従って、カーボンニュートラルを達成する場合は、エネルギーを生み出す際に使用する化石燃料の消費を極力おさえることが必要不可欠となります。

昨今は太陽光発電や風力発電など、化石燃料を使用しない発電方法が注目されています。また、安全確保という大きな課題はあるものの、発電の際にCO2排出が極めて少ない原子力発電が少しずつ見直されつつあります。
なお、最近は石炭よりもLNGの方が環境にやさしいというイメージがありますが、石炭(一般炭)とLNGとで同じエネルギーを生み出す際のCO2発生量を計算すると、LNGはCO2発生量が石炭と比べて約55%になる、との国の試算値があり、確かに相対的にはLNGの方が環境にやさしいということは言えるかもしれませんが、カーボンニュートラルを目指す場合はLNG使用量の削減も避けては通れないと言えるでしょう。

カーボンニュートラルに対するプラスチックの影響について

プラスチックの原料となっているのは前述のナフサの一部であり、計算がやや複雑ですが、日本の場合石油のおおよそ3%程度がプラスチックに変換される計算となります。まれに「カーボンニュートラルを達成するためにはプラスチックの使用をやめればいい」と言われる方がいるようですが、プラスチックの使用をやめるだけではカーボンニュートラルは到底達成できない、ということはこれまでの説明でお判りいただけるかと思います。プラスチックの代表例であるポリエチレンやポリプロピレンは、燃焼させるとプラスチック1kg当たり理論上約3.1kgのCO2が発生します。

日本の場合は、例えばごみ焼却炉で燃焼させる場合にエネルギー回収を行うことが相当進んでいるため、結果的には発電に使用する化石燃料の削減につながり、理論値よりももう少しCO2発生量が少ないということは言えるかと思います。しかし、焼却処理を実施する以上は、CO2発生量をゼロにすることはできません。これらのことから現在プラスチック業界では、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルなどによって、プラスチックの焼却量を極力減らして再生プラスチックに変換する技術が研究・開発されており、一部は既に実施済みとなっています。また、既にCO2を吸収済みのバイオマス原料(光合成でCO2を吸収した植物由来原料)からプラスチック(バイオマスプラスチックと呼ばれています)を生産する技術の研究・開発も盛んになっています。これは、2021年1月に環境省が策定した「バイオプラスチック導入ロードマップ」の影響が少なからずあると思います。

プラスチック関係で他にCO2を削減できる要素はあるでしょうか?

どのような製品でも、その製造には少なからず熱や電気などのエネルギーを使用します。プラスチックも同じです。高度に専門的な計算となりますが、LCA(ライフサイクルアセスメント)によって、天然原料からプラスチックを生産し、かつ使用後の廃棄に至るまでのエネルギー使用量が計算された例が幾つかあります。このエネルギー使用量はプラスチックの種類や生産方法によって大きく左右されるので厳密な数値は断言できませんが、大まかに説明するとエネルギー由来の発生CO2量はプラスチックを燃焼した際に発生するCO2量の半分~同程度といったイメージです。

では、このCO2発生量をゼロにするにはどうしたらいいでしょうか。残念ながら、プラスチック業界だけでこのCO2をゼロにするのは実質不可能です。なぜならばエネルギーを全量自社でまかなっている企業はほとんどいないからです。
他力本願とはなりますが、まずは再生可能エネルギーの普及に期待し、合わせてその普及に協力していくことくらいしか当面は方策がない、というのが現状です。

カーボンニュートラル目標達成にむけて

カーボンニュートラル達成には、プラスチックの原料やリサイクル、また使用エネルギーなど幾つかの課題があり、複合的な対策を立てなければ達成は極めて難しいのが実情です。また、そのためには革新的な技術の確立やそれを実行に移すための産業構造を変えるくらいの巨額な投資が必要で、最終的にはプラスチックの価格にも少なからず影響があると言わざるを得ません。

一方、そのような費用を企業や業界だけで負担するのは到底無理な話で、社会全体で費用を負担する仕組みが必要かと思います。また、技術確立やその普及に要する時間はかなり長いと予想されます。
2050年の目標達成は決して余裕のあるものではなく、むしろかなりの速度で進めなければならないと思われます。